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岐阜地方裁判所 昭和39年(ワ)505号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕国島尚人の得べかりし利益の喪失による損害額。

(イ) 尚人は事故当時満三年六月の男児であつて、<証拠>によれば健康に成育していたことが認められるから、昭和三九年簡易生命表により満三才の男子の平均余命が六六、五三才であることから、特別の事情なき限り本件事故なかりせば尚人はなわ右期間生存し得たものと推認し得る。

(ロ) ところで本件の如く、当時無収入の男児の将来における逸失利益を算出する場合においては、既に一定の職業に就き一定額の収入を挙げている成人の場合に、諸般の具体的事情を考慮してその将来の逸失利益は或程度個別的、具体的に算出し得るのと異なり、当該男児の父母の教育程度、職業、財産状態、家庭環境等諸般の事情を考慮しても、右男児が将来如何なる職業に就き、如何なる能力を発揮し、そして如何なる程度の収益を挙げ得るかは殆んど予測し難いのが通常である。従つて当該男児が幼少より既に特殊な才能を示し或は逆に致命的な素質を有する等特段の事情の認められない限り、その将来における逸失利益は、一般人の平均的収益を基準として定型的に算出するのが最も通常の事態に適合する蓋然性が大なるものと考えられる。尤もかような平均的収益額を基準とする賠償金の支払により、被害者側が時に貰い過ぎとなる場合もあり得るという懸念もないではないが、今日の我が国におけるように、勤労者の収入額が逐年増加の一途を辿ることは統計上顕著であるし、余りにも控え目な計算方法による時は、その賠償金が少なきに失して被害者の救済を完うし得ぬ場合を生ずること多きを免れないであろう。

(ハ) 右の見地に立つて亡尚人の逸失利益を考えてみるに、労働大臣官房労働統計調査部調によると、一九六三年の全産業の一〇人以上の常用労働者を雇つている事業所の平均月間きまつて支給される現金給与額は男子金二九、七〇三円である。

他方総理府統計局調によると、一九六三年の人口五万以上の都市の勤労者世帯(世帯人員四、一七人)の一ケ月間の消費支出金四三、九二七円、非消費支出金四、六二九円、税金二、八五四円であるが、世帯主となるべき男子の消費支出額の割合は他の家族員のそれに比して高いことは経験上明かであるので、その三分の一である金一四、六四二円(円未満切捨)を世帯主の消費支出額と認めて大過はないであろう。よつて前記の現金給与額から右消費支出額と税金額とを差引いた金一二、二〇七円が世帯主たる男子勤労者の平均的月間純収入である。

尤も勤労者はその初任給が低い反面漸次昇給してその給与額は増加するのが通常であるのみならず、家族構成も年と共に変動し、世帯人員数、扶養家族数も増減するを常とするけれども、統計による平均値たる右の数値は、人の稼動期間中の平均的収益額として、之を逸失利益算定の基準とするに妨げないものと考える。

(ニ) 原告等の学歴、職業がその主張の如くであることは<証拠>により認められるので、特別の事情の認められぬ本件では、その長男である亡尚人も、若し成人したならば一般勤労者の平均的収入を挙げ得たものと推認するを相当とし、その稼働し得る期間は一般の経験に従い満二二才から満六〇才に達する迄の三八年間と認めることができる。よつて前記一ケ月金一二、二〇七円、年額金一四六、四八四円の収益を爾後三八年間に亘り取得するものとして、ホフマン式により年毎の収益額につきそれぞれ年五分の中間利息を控除してその現在価額を求めれば金三、〇七一、八一三円となること計算上明かである。よつて尚人は同額の得べかりし利益を失つたものということができる。(小西高秀)

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